卒業できません
就職活動や最後の考査を終え、卒業を控えた大学4回生の2月。新居に入れる家具を買いにわざわざ県外まで出掛けたその日、留年
大方のことは受け入れ、反省し、感謝さえした。けれども卒業式の当日、袴や振袖を着て写真に収まる美しい同窓生達の華やかな様子をスマートフォン越しに眺め、何とも言えない気持ちになった。その写真を見ることができないほどの落ち込みはなかったが、いったん伏せてみたり着物の柄をなんとなく拡大してみたりしながら、これが留年するということか、とようやく自分が負うべき情けなさと恥ずかしさに触れることができたような気がした。
本当のことをいうと、
彼女達のきらびやかな卒業式をSNS越しに見張りながら、私の存在はあの娘たちの大学生活から投げ出されてしまったなと少し不貞腐れ、一つ下の学年の、同い年の恋人に会いに行くことにした。
卒業式は私の恋人の住むアパートの最寄り駅から徒歩3分のキャンパスで行われていた。本当はどちらが目的だったのか考えたくはないが、ここまで来たのだからついでに、と自分に言い聞かせて会場に向かった。卒業式の時間はとうに終わっていたが、誰か知り合いがいるかもしれないし、友人に会えるかもしれない。そう考えると同時に、さすがに今日は誰にも会いたくない気分でもあった。会ってもおめでとう以外に何を言えばよいのか分からないし、私と会うことでその誰かに気まずい思いをさせてしまう。せっかくのおめでたい日にシミを残し、自分にとっても苦い思い出を増やすだけではないか。自分でも何がしたいのかわからないまま、懐かしくもない他学部のキャンパスの門をくぐり、式場外の花道を進む。やはり自分の学部の式はとっくに終了している。別の学部の卒業式も今しがた終わり、これから花道を通って退場するところらしい。先輩や友人、恋人の晴れ姿を見に来たらしい顔見知りに何人か出くわし気まずい顔をされたが、なんとか平静を装って通り過ぎた。やがて校舎の扉から溢れ出た色とりどりの袴を着た女の子たちの流れに逆らって進み、そのままどこまで歩けばよいのか、どこへ行きたいのかも分からず、図書館へと逃げ込んだ。学生証で図書館のゲートを通り抜けるとき、あ、これまだ使えるんや、とにんまりし、張りつめていたものを緩めたのがいけなかった。
もろもろになったトイレットペーパーで何度も顔を拭い、立ち上がって個室を出るまでに、30分は掛かったのではないかと思う。私は自分が何故泣いているのかも分からないまま、このやるせなさの落としどころがどこにあるのかを考え続けた。
一日中握り締めた水色のスマートフォンは、その日一度も鳴らなかった。