明るい生活

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夏を終わらせるな

 BOATというバンドが好きで、去年の夏には死ぬほど聴いた。夏全開!という感じの元気なポップパンクバンド。NATSUMENの前身だそうだ。いいよ。

 今年の夏は音楽を聴かなかった。時給四ケタの健全なアルバイトのために毎朝早起きをして、夜は暑さで眠れず苦しんだ。我が家にはリビングに一台だけクーラーがあるが、エコと倹約をモットーとする母はその使用を認めたがらない。昨年までの私はまあそういうものか、と考えていたが、今年はぼんやりともしていられない暑さにどうしても腹が立ち、扇風機から送られる生ぬるい風にも怒っていた。音楽を聴いている場合ではない。あまりにも暑いと気温と飲み物のことしか考えることができず、音楽を聴くことができるのは余裕のあるときだけだと気付いた。

 何年か前の初夏、私には初めて恋人ができ、それまで嫌いだった生ゴミ臭くてビワコ虫だらけの汚い夏は明るく輝く最高の季節になった。恋人と過ごして笑い、サークル生活は充実し、大学の勉強も楽しかった。何よりも、一年前から始めた下宿生活の快適さに叫び出したいほどの自由を感じていた。あの夏には、私の青春と女の子としてのあまりにも短かった人生のすべてが詰まっていた。好きな人に好かれたと感じて浮かれていたことや思い出補正が働いていることを除いても、あんなにキラキラした季節はもう来ないような気がする。

 恋人とはまだ続いているが、もともと影のある佇まいが格好良いと思えた彼はその性格の9割を占める陰気な気質を隠さなくなり、私もしっかり者で気遣いのできる女の子ではいられず厚かましい基地外ババアになった。そもそも貧乏でギリギリだった二人の置かれた状況はどんどん悪くなり、お互いのしょうもなさから目を反らせないほどに時間が経った。もう終わりが見えている。悲しいなあ。泣けてきた。

 それでも今年も夏は来た。あの夏のように、それが無理ならせめてあの夏の次に最高の夏にしようと誓ったが、気付けば夏は終わり、あんなに腹を立てた日差しも恋しい季節が来ていた。暑さとお金、それからださいお酒で消費してしまった22歳の夏は、ここ数年でも最低の過ごし方をしたように思う。コールセンターのクーラーで冷やされ、外気の熱にやられた陰気で憂鬱な夏。それでも、やり直せなくてもいいから、せめてまだ終わらせたくない。