明るい生活

みんなに読まれたい

卒業と、それからのうだうだ

 クリスマスだ。だから何という話ではあるが、なんとなくそわそわし、ちょっと街にでも出掛けようかなという気分になる。実体のない“みんな”に付いていけずに疎外感を味わされたくなくて、私もその人達のする何かに参加したいのである。その何かが何たるかははまだ分からないが、主体性がなく、無意識のうちに常に“ここではないどこか”を探している私には恐らく一生わからない。自分がそういうしょうもない性質の女であるということだけはわかった。

  9月の半ば、私は同窓生から半年遅れて卒業し、晴れてフリーターとなった。学生でもなく社会人でもない、よくわからない曖昧な立場から社会に参加することは難しく、未だに学生時代の交友関係や思い出に縋って生活している。みんなそうなのかもしれないけれど、すごくやばいのかもしれない。周りを見渡すと、私と同じように留年し現在も学生生活を続けている友人は少なくないが、そういった友人達は皆大きな目標や問題、特別な事情を抱えていて、ただ自堕落なだけの何もしていない私とは違うような気がする。そもそもよく考えるとそう親しくもない。そういった友人達とは滅多に会うことはないが、何となく共同体意識を持って以前よりも少しだけ親しくなったような気がしている。

  しかし、その留年仲間の一人であったS君とひょんなことから仲良くなった。S君はギターが上手で音楽しかない、というタイプの男の子で、周りから変わり者といわれていた。どうしてもバンド活動をしたかったらしく、私の歌とピアノを褒めてくれて、その上私にバンドで歌って欲しいと言ってくれた。私は軽音サークルに所属しキーボードを弾いていたが、内心ずっと歌いたくてたまらず、ボーカルパートをやらせてもらうこともできずキーボードコピーマシンになっていることについて、本当は物凄く腹が立っていた。それまでキーボードを一人で担当していた女の子がサークルを辞めたとき、変わりが私しかいなかったということで引き受けたことに始まっているので、完全に自分で蒔いた種だ。しかし、自分よりも下手くそなボーカルちゃん達のためにけして容易ではないキーボードのパートをコピーしまくったサークル生活を振り返って、何やってんこれ、と怒っていた。あの頃から時間は経ったが、S君の申し出は願ってもみなかったことで、こんなに嬉しいことがあるのかと今年一番くらいに喜んだ。一緒に曲を作り、録音し、いよいよバンドが始まるぞとドキドキしていた。

 ある日S君から、セッションイベントで出会った人らともバンド組んでるんやけど、千晶ちゃんよかったら一回キーボードで入ってくれん?と言われ、西院のスタジオに出掛けた。S君がネットで知り合ったというバンドメンバーの人たちとラインで事務連絡を取り合い、スタジオに入り、楽しい!何でもドラムの男の子はプロを目指しているらしく、専門学校で本格的にドラムや音楽について勉強しているため演奏もそれなりに上手い。他の楽器のみんなも、まあできればデビューを目指したいな〜というところらしい。そこには勿論ボーカルパートの人もいて、それは私より2歳若い女の子だった。少しぽっちゃりとしてはいるが、若さも相まって可愛らしく、椎名林檎が大好きらしい。 “林檎ちゃんと同じ”ミントグリーンのギターを持って歌い、礼儀正しくてよく笑うとてもいい子だった。ギターは下手だが歌はまあまあ上手。愛嬌のある子で、そのスタジオでは店員みんなに声を掛けられ、ひどいワキガにも関わらずアイドルのような扱いを受けていた。

 この日から私とS君とのバンドの話は消滅し、私は何故かこのバンドのキーボードの人、になっていた。私とS君の作った曲は“林檎ちゃん好き”の彼女が歌うらしい。S君からはまだ何も聞かされていないが、私が軽音サークルで散々受けてきた扱いはここにきても続くらしい。私の方がずっとセンスがいいし歌も上手いのに。その子が鼻歌を録音した、というデータについて、バンドの男の子達はいいねいいねと褒めていた。私はほんまあと思った。これが私。男のバンドで歌をうたう権利がある女は、めちゃめちゃ上手い人、とカワイイ女の子だけですね。

 けれども私は年齢やしょうもないプライドのせいで、それでどうこうは言えないし、最早何の期待もしない。クールなあたし、というのではなくて、本当に、自分がどれくらいの人間なのか知っているのだ。顔が、才能が、センスが、ということでもなくて、そういう星の下に産まれたのが私。便利に使ってもらうことでしか相手にされない女。

 バンドでプロデビューなんて出来るわけないよ。できる人もいるかもしれないけれど、このバンドでは無理やろ。でも、キーボードでもいいからバンドはしたい。今すぐに辞めるつもりはない。少し怒っていますが仕方のないことです。

 私は一旦就職したら、少なくともしばらくは怠惰に働き続けるだろう。自分を変化させるエネルギーがないということは、全てを辞めて怠けてしまう人間よりもさらに厄介かもしれない。私はこれからもブスでブスキャラで、便利な女として価値を見出してくれる男の子にだけは相手にしてもらえる、という立場でい続けると思う。悲しい。そういう星。

 結局私はまた、相変わらずバイト漬けの毎日にうんざりし、電車を呪っている。